過剰な「自粛」は「潔癖社会」または「ムラ社会」

ピエール瀧が薬物所持で逮捕されたことによる「自粛」が恐ろしいことに
なっている。
ワイドショーで知った限りでは、以下の「自粛」が行われている。
大河ドラマ『いだてん』放送シーンカット(再放送時)
・『いだてん』全シーン撮り直し(今後の配信・メディア化を考慮)
・朝ドラ『あまちゃん』の放送中止
・その他NHK出演作品のオンデマンド配信停止
電気グルーヴのCD・DVDの出荷停止
電気グルーヴの結成30周年記念ツアー中止


容疑者として勾留されている以上、現在進行形である『いだてん』や
コンサートツアーに出演することは不可能なので、これらにおける
対処は致し方がない。
過去のシーンも撮り直す、というのも、作品における一貫性をもたせる、
という意図があるのならば理解は出来る(見る側がそこまでこだわるか、
はともかくとして)。
しかし、それ以外は明らかに過剰な「自粛」である
まるで、「うちはここまで自粛しますよ。それぐらい、犯罪に対しては
シビアに対応する体制をとっていますよ」
ということを、アピールして
いるかのごとく。


あまちゃん』の音楽を担当していた大友良英氏は、Facebook
以下のように書いている。
「やはりどう考えても「あまちゃん」後編の放送自粛は良くない。
再放送が三陸鉄道リアス線開通祝いのためにあること。
犯した罪を裁くのは司法であるべきで番組の自粛では何も解決しないこと。
そもそも一個人の問題であり番組が連帯責任を負うべきものではないこと
などが理由。どうにかならないものか。」

楽家坂本龍一氏もTwitterで以下のようにツイートしている。
「なんのための自粛ですか
電グルの音楽が売られていて困る人がいますか?
ドラッグを使用した人間の作った音楽は聴きたくないという人は、
ただ聴かなければいいんだけなんだから。音楽に罪はない」

つまり、作品そのものには罪はないのだから、その価値を享受できる
環境は維持されていてしかるべき、個人の罪と連動させるな、という
ことになる。


私もこの考えに100%賛成である。
嫌なら見ない・聞かない、という選択肢が許されているのだから、
強要ではない。
しかし、放送中止や出荷停止という対応は、作品を楽しみたい、と
考える人間の選択肢を奪ってしまう。
何より、作品の価値よりも「ピエール瀧を世に出さないこと」の方を
NHKSME(レコード会社)は重視している、と解釈されても仕方がない
対応である。

「震災復興のシンボルとしての三陸鉄道開通」や「30年間に渡って
支持され続けてきた画期的なテクノポップ」よりも、ピエール瀧
世の中から一時的にでも抹消してしまうことを、NHKSME
選んだのだ。
私はこの判断は、「公」に反している、と思う。


今朝の『モーニングショー』では、この「自粛」に対して世間では
賛否両論、と伝えていた。
賛成意見として、ピエール瀧の姿を見ると「ああ、薬物やってたんだな」
と感じながら見るようになるから、とか、巨額の賠償金が薬物使用の
抑止力になるから、というものがあるらしい。
後者は話にならない。
どれだけ厳しい刑事罰が設けられても、世の中から犯罪がなくならない
のは自明の理で、賠償金が巨額だろうが、すぐさま実刑判決になろうが、
それで抑止力にはなるはずがない。
前者のような意見は、少数派だと思う。
というよりも、世の中が健全であるためには、こういう意見は少数派で
なくてはならない。
何故ならば、潔癖な社会こそが不健全であり、人間はそれに耐えられない
からだ。
猥雑、煩悩、いかがわしさ、邪な部分をある程度併せ持っているのが
人間であり、それが容認される社会こそが健全なものである。

出演者個人の犯罪やスキャンダルなどをいちいち気にかけて、
「まっさらな人間しか、世に出るな!」とヒステリックな声を上げる
ことこそが、人間社会を窒息状態に陥れるのだ。


そもそも、海外のミュージシャンに目を移せば、薬物使用者など
山のように存在するではないか。
ジョン・レノンジョージ・ハリスンキース・リチャーズ
薬物使用者だった。
ホイットニー・ヒューストンは薬物が原因で亡くなったし、
レディー・ガガも過去の薬物使用を告白している。
ジャズミュージシャンともなると、1950年代は薬物使用のバーゲンセール
である。
チャーリー・パーカーバド・パウエルマイルス・デイヴィス
チェット・ベイカービル・エヴァンスなど、そうそうたるビッグネーム
が、麻薬に溺れながら傑作を遺している。
彼らが評価されているのは、「薬物使用が氾濫していた時代で、仕方が
なかったから」ではない。
薬物使用とは別に、ミュージシャンとしてその演奏や作品が評価されて
いるだけのことだ。

本人の犯罪歴、スキャンダル、性格など、全く関係ない。
マイルス作品を始め、ジャズアルバムも多く手がけるSMEが、こうした
割り切りが出来ないのは誠に嘆かわしい。


今回の「自粛」は、欧米人にとっては理解不能だろう。
「価値」「成果」「才能」の評価を、それ単体で行えない、
本人の身辺込みで善し悪しを判断する、というのは、
山尾志桜里議員の「不倫疑惑報道」を思い出す(結局、アレは全くの
嘘っぱちだったが)。
日本の「ムラ社会」ぶりが、ここでまた露わになった。


ちなみに、性暴力犯罪で逮捕された俳優の新井浩文に関しては、
少しシビアに判断すべきだろうとは思う。
被害者女性は、新井浩文の顔を見るだけでPTSDの症状を示す可能性が
あるし、その他同様の性的な被害を経験した女性も、何らかの不快感や
拒絶反応を示すかもしれない。
性犯罪は問答無用で一線を画しておかなければならないと思う。