「やってる感」が虚構の「健全性」を信じさせる

5月17日の毎日新聞夕刊に、政治学者・白井聡氏へのインタビュー記事が
掲載されている。
著作『国体論 菊と星条旗』(集英社新書)が話題を呼んでいる、
新進気鋭の政治学者だ。
この内容が、非常に興味深い。

白井氏は、2年前にヒットした映画『シンゴジラに熱狂している観客に、
「安倍さんを支持する人たちの姿が重なった」
と言う。
両者の共通点は、
「『統治機構が実はこんなに頼りになる』というファンタジーを信じたい」
という心理なのだそうだ。

シンゴジラ』を見て感じたのは、
東日本大震災、とりわけ原発事故で統治エリートの無能がさらけ出された
ことへの『反動』」
だという。
「(震災の混乱を見て)統治機構がもう少しまともだと思っていたが、
そうではなかったと。この映画はその逆を描いている
と解釈している。
そして、安倍政治を支えるのは、統治機構の漠然とした「健全性」を
信じたい人なのだ、
と。

「信じたい人」に「健全性」をアピールするのであるから、それはすなわち
ファンタジーなのだそうだ。
そして、ファンタジーを信じさせる「装置」について、白井氏はこのように
語っている。
「安倍さんは名言を残しました。『何かをやっている感じが大事だ』と。
(中略)本当にやっているかではなく、そう見えることが大事だと」

安倍晋三のこのスタンスについて、記事では以下のようなプルーフ
提示している。
御厨貴らの著書『政治が危ない』によると、御厨氏が安倍晋三に対して
アベノミクスは本当に成功したんですかね」と尋ねると、
「『やってる感』なんだから、成功とか不成功とかは
関係ない」

と答えたという。
為政者として、驚くべき発言である。

『国体論 菊と星条旗』では、日本はアメリカの属国であるにも関わらず、
その状態を認めたくない、なおかつ経済が低迷しているにも関わらず、
アジアのリーダーでありたい、というアイデンティティの喪失に直面した
日本人らが「集団発狂」している状態なのだ、と現在の日本を分析している。
これは同書の書評で仕入れた情報なので、詳しくはいずれ同書を読んで
みなければならない。

ともあれ、「集団発狂」している連中が、正気を保つために自国の統治機構
「健全性」がある、というファンタジーを信じこみ、それで自信を回復して
いる
のが現状らしい。
ネトウヨやエセ保守が、中韓に対してヘイトを吐きつつ、アメリカには一切
批判を加えない
理由が、よく分かる。

そして、この度の西日本豪雨における政府の対応を見ても、安倍晋三
「やってる感」スタンスという見方は説得力があることが分かる。
散々批判されている「赤坂自民亭」という飲み会の不適切性については、
全く触れることがない。
その上で、
「プッシュ型支援」「早め、早めの対応」
という、相変わらず威勢の良いフレーズだけを用いる。
実際に、何かを「早めにプッシュ」した形跡は、今のところ見受けられない。
それも当然、「やってる感」が大事だから、実際に何かを実行しなくても
よいのだ。

また、安倍晋三は被災地を視察に訪れたが、股関節を痛めたという理由で
視察を中断
してしまったらしい。
「いずれ、必ず訪問する」とは言っているが、全く信じられない。
国会で平気で嘘をつき続けている人間だからだ。
そもそも、避難所で膝をついて被災者と話す、という天皇陛下の真似事を
するのであれば、股関節が痛い程度で視察を中断してはならない。
「苦しい思いをしている国民が、多数存在する。その方たちを励ましたい」
という気持ちが強いのであれば、車椅子を使ってでも強行するだろう。

これまた、「やってる感」である。
強行するのはしんどいから、必ずしも全て実行する必要はない、という
スタンスだ。

安倍晋三「やってる感」を出している間、国会では「定数6増」が可決され、
カジノ法案」の審議が続行中。
国土交通大臣石井啓一は、被災地の交通網の復旧には全く関心がないらしい。
防衛大臣小野寺五典は、「赤坂自民亭」に参加していながら、
防衛省から随時連絡を受け、指示を出していた」
と言うが、記者から
「酒を飲みながら、飲み会から指示を出し、飲み会で報告を受けていた
ということでいいですか」

と問われると、
「会合の最中に連絡があったとか、会合の最中に連絡をしたということは
ありません」

と、明らかに相反する矛盾した回答をしている。
「随時連絡」と「指示」が、ちょうど飲み会が終わってから行われた、
などと都合の良い話など信じられない。

官房副長官西村康稔は、
「週末の大雨の被害が出ている最中に会合をやっているかのような
誤解を与えた」

と言うが、あの時間帯において、既に大雨の被害は発生していたのだ。
「誤解」という表現で責任を回避するな!

こうした不祥事とその醜い取り繕いを見ていると、統治機構の「健全性」が
いかに虚構に満ちたファンタジーであるか
がよく分かる。
白井氏は、このように語る。
「日本はディズニーランドなんですよ。夢の国の中にいれば、外の世界は
見えない」

確かに、ディズニーランドを囲むセットは、それ自体は「作り物」ではあるが
見事に「現実」から目をそらさせてくれる。
ただし、ディズニーランドと安倍政権の決定的な違いが存在する。
ディズニーランドは、いつだって「お客様ファースト」なのだ。
「利己主義」に陥ることがない。
ファンタジーを見せておいて、裏で粛々と自分勝手な行動をとり続けているのが
安倍政権である。