何とぞ「皇室典範」の改正を

天皇陛下が8月8日に「お気持ち」をビデオメッセージで
述べられた。
やはり陛下は「公」に殉ずることを最優先されているようだ。
そこには「私」の感情など、一切存在しない。
「もう疲れたから、退位したい」ということではないのだ。
あくまで「公務を正しく行うことが困難になったから」
なのである。
つまり、「公」において問題が生じる、具体的には
「国民に迷惑をかける」から、退位のお気持ちを発しているのだ。


先月末のことだが、毎日新聞には驚くべきコメントが
掲載されていた。
とある大学教授が、「今後は、公的天皇と私的天皇の両立
ということも考えていく必要がある」と述べていたのだ。
「私的天皇」って、何だそりゃ?
天皇について何も知らない、ということが明らかだが、
それでよく大学教授なんか務まるな、と思う。


そういえば、「お気持ち」を受けて社民党の幹事長は
「陛下の人権を考慮して……」といったトンチンカンな
コメントを発していた。
天皇は「無私の存在」だから、人権などといった近代合理主義の
概念とは無縁である。
「人権がある・ない」という二元論自体が成立しない。
やはり、分かっていないのだ。


ところで、今朝の毎日新聞の一面見出しにも驚かされた。
「生前退位」について特別立法で対応、とあったのだ。
これ自体は毎日新聞の見解ではなく、安倍首相や官邸に近い
関係者に取材した上で、政府がこうした方針をとることを
視野に入れている、と判明したのだ。


「特別立法」で対応するというのは、「生前退位」を認めるのは
今回が特別、と見なすことである。
つまり、「皇室典範」は改正しない、という方針だ。
私はこの方針には、猛烈に反対する。


上で述べたように、陛下は「私」のことを述べたのではない。
現状では「公」に差し障りが発生する可能性がある、と
述べているのだ。
だから、後生の天皇も公務に集中できるように、
皇室典範」の改正が望ましい、と暗に主張されている。
政府は、そういった「お気持ち」を汲み取らないつもりらしい。


政府だけでなく、エセ保守系知識人も「皇室典範」の改正には
否定的だ。
仮に、典範で「生前退位」を永続的に認めてしまうと、


1.天皇の地位が日本国民の総意に基づく、という憲法第1条に
抵触する可能性がある。
2.上皇法皇に相当する立場が誕生すると、今上天皇と権威が
二分される可能性がある。
3.何らかの権力で、恣意的に退位を強いられる可能性がある。


……といった問題が存在するのだそうだ。
でも、個人的にはいずれも苦しい理由付けに過ぎない、と感じる。


「公」に殉じている天皇に、国民は畏れ多い感情を抱いている。
だからこそ、しぜんと権威というものが発生する。
この状態が動かしがたく維持されている時点で、国民の総意が
得られているのは明らかだ。
実際、世論調査でも7割~8割近い国民が、「生前退位を認める」
皇室典範を改正する」という点において賛成している。


2と3はなにをか言わんや、である。
上皇法皇が権威をふるったのは平安末期の一時期だけだし、
天皇が恣意的に退位を強いられたのは南北朝時代だけだ。
いずれも武士が勢力を付けていた時代であり、それを現代に
当て嵌めるのには無理がある。


明治時代の「旧皇室典範」を制定した伊藤博文は、
確かに「退位の強制」に危惧を抱いてはいた。
しかし、それも当時の日本が欧米列強に囲まれ、
植民地化を防ぐために国力を増強していた時代だったことを
考えると納得できる。
先が見通せず、どのような権力や暴力が発生するか予想が
つかなかったからだ。
果たして現在は、そのような動乱の時代なのだろうか。


私はあまり詳しくないのだが、何でも安倍首相をはじめとする
自民党執行部は、「日本会議」という右翼団体と近い関係に
あるという。
エセ保守も同様だ。
この「日本会議」が、典範改正に反対している。


最大の理由は、「女系女子の天皇」と「女性宮家」を
認めたくないからである。
典範改正となると、必ずこの問題が議論として浮上すると
予想されるからだ。


天皇が男系男子に限られたのは、やはり「旧皇室典範」以降
のことである。
2,700年近い皇室の歴史(もちろん神武天皇を起源としている)の
中で、たかだか150年足らずの期間に施行されていただけの
典範である。
過去において、女系女子の天皇が存在したことは言うまでもない。
しかし、「日本会議」は何が何でも男系男子にこだわるらしい。


ひょっとしたら、皇室の権威が失墜するとでも思っている
のだろうか。
しかし、既に述べたように、皇室の権威は「公」に殉ずる
「態度」から発生するものであり、性別や制度で祭り上げる
ものではない。
まさに「国民の総意」なのである。
敬宮殿下(愛子内親王)がいずれ天皇となることを期待している
国民も多いのではないだろうか。


実は、このような皇室についての議論が、やはり右翼団体
よって熱心に交わされたことが過去にもあった。
現在の皇后陛下である美智子様が、初めて民間出身の妃として
皇室に入られたときのことだ。
国民は熱狂的に支持していたが、それをよそに右翼は
「これはカトリック教徒である正田家の陰謀だ」
「たかが、粉屋の娘ごときが(美智子様日清製粉の社長令嬢)」
「皇太子が恋愛にうつつを抜かすとは」
「これで皇室の権威は墜ちた」
と、意気盛んに論じあっていたという。


今、読み返すとあまりにもバカバカしいが、現在の状況は
当時のものに似ていないだろうか。
結局、右翼は天皇や皇室のことなど何も考えていない。
「自分たちが納得する天皇や皇室」であってほしい、という
私的感情丸出しのスタンスに過ぎない。
そういった「私」に浸りきって「公」について考えを巡らせない
という思考回路は、「保守」ではない。
エセ保守、自称保守、クソ右翼、ネトウヨなどと蔑まれる。


ちなみに、神道学者にして歴史研究家の高森明勅氏も
参加されている『ゴー宣道場』(小林よしのり氏が主催)という
ブログ系サイトが、陛下の「お気持ち」表明後の3日間、
ネットで繋がりにくくなった。
何でも、複数のIPアドレスからサイト攻撃を受けていたらしい。
このサイトでは、小林氏も高森氏も「生前退位」「皇室典範改正」
「女系女子・女性宮家」に賛成している点において有名なので、
ひょっとしたら「右翼系団体」が何らかの妨害工作を行ったのでは、
と疑われるフシがあるという。


結局、左翼も右翼もバカはやることが同じなのだろう。
そんな一時的な妨害に意味があるわけがないではないか。
単純に私的感情を押し通したいだけ、というワガママ集団だ、
ということが明らかになっただけではないか。


「国のことを考えている」という看板を掲げながら、
その実、国民の感覚と乖離して「私」に拘る、というのは、
ひょっとしたら「無自覚な国賊」と言って良いのかもしれない。